さめないゆめ・・・

HSP・内向型人間が綴るブログ。日々の雑感、本や映画の感想(イギリス、ヨーロッパ多め)などについて書いています。

「月と六ペンス」(S・モーム 1919年)

イギリスの作家、サマセット・モームが書いた作品。実在の画家ゴーギャンをモデルにしたとされている。物語は主人公(=「私」)の視点で書かれている。「私」から見た画家・ストリックランド氏(=ゴーギャン)を追っていく形のストーリー。

 

 

あらすじ

「私」はストリックランド夫人の家に招かれ、そこで夫のチャールズ・ストリックランドと出会った。後日、夫人から「夫がいなくなったので探して欲しい」と頼まれる。どうやらストリックランド氏はフランス・パリにいるとのこと。「私」はパリに行き、懸命にストリックランド氏を説得するも彼は「自分は絵を描き続ける。もう家には戻らない」と頑なに言い張り・・・

 

 

初めて読んだ時、「妻も子もいるのにストリックランド氏は勝手な人だなー」と思いましたが、ついこの間・・・私も遅ればせながらの反抗期を迎え、今ではストリックランド氏の気持ちが手に取るように分かるのです。

彼が絵に人生を捧げ、家を出たのは40歳です。その以後の彼は頑固一徹もう何の迷いもなくひたすら絵を描き続けます。その姿はある意味、傍若無人、自己中心的・・・とも言えます。

「私」の友人のオランダの画家ストルーヴェ君ゴッホがモデルではないかと言われている)はストリックランド氏にぞっこんとなり、何かと援助をします。このストルーヴェ君、ちょっとお人好しで頼りないけど凄く良い奴なんですよね。そして、既婚者で奥さんの名前はブランチ。最初はラブラブ夫婦だったんですが、ブランチがストリックランド氏に惚れこんでしまい、最終的に夫婦は破綻。

しかし、どちらかというとブランチの一方的な片想いのため彼女は自殺を計り亡くなってしまうのです。それでもストルーヴェ君はストリックランド氏を尊敬・崇拝し続けるのです。ストリックランド氏はというと、周りのことなど気にする様子もなく、相変わらず自分の本能の赴くままに絵を描き続けています。

このくだり、本当ストルーヴェ君が切ないんですよね・・・良い奴過ぎて(涙)彼はストリックランド氏に関わったことで、最愛の奥さんを失ってしまった。でも、奥さんの気持ちも痛いほどわかってんでしょうね。自分自身もストリックランド氏に惚れこんでいたから。まさにストルーヴェ君とブランチは同じ人間に惚れた者同士でもあったのです。

それに、「私」に説得されて「はい、イギリスに帰ります」って素直に言う聞くようなストリックランド氏だったら、ストルーヴェ君もブランチも絶対に惚れこまなかったと思う。主人公の「私」も何だかんだでストリックランド氏を追うことをやめられないんですよね。

ストリックランド氏は自分のやりたかったことを長年抑圧し続けて、40歳にしてそれが爆発してしまったのだと思います。結婚して子供が産まれるずっと前からね。両親と一緒に過ごしていた時期からずーっと・・・だから、もう自分でも魂が導く方向に進むのを止められなかったんでしょうね。止めようとも思わなかった。まさに「止められない、止まらない」状態だったんだと。

 

彼の周囲の人間を惹きつけてやまない魅力はもう善悪を超えたものだったのではないでしょうか。捨てられてしまったイギリスにいる奥さんや子供達の気持ちを考えると、これまた悲しいけれど・・・40年分の抑圧の反動は大きすぎたんでしょうね。

 

余談ですが、画家になる前のストリックランド氏の職業は株の仲買人。

実はこの職業、モンティパイソンのスケッチで「公認会計士」と並んで散々こき下ろされている職業なんですね。堅実で安定しているけれど、つまらない職業の代名詞・・・とどこかで聞いたような気がします。現代日本で言うと「公務員」みたいなものなのかな。