さめないゆめ・・・

HSP・内向型人間が綴るブログ。日々の雑感、自分が自分であること、人生について、本や映画の感想(イギリス、ヨーロッパ多め)などについて書いています。

読書感想 「透明人間」(H.G.ウェルズ 1897年)

元祖SF作品群が面白い!・・・ということでウェルズの「タイムマシン」に続き、「透明人間」を読みました。

私が「透明人間」という言葉を知ったのは、小さい頃見ていたNHK教育テレビおかあさんといっしょという番組だったかもしれません。その番組の中で「透明人間」をテーマにした歌がありました。幼児向け番組ということで、歌詞や曲調は可愛いものになっています。

・・・が、本作は面白おかしいイメージは一切ありません。

 

 

あらすじ

2月の寒々とした日、イギリスのアイピング村に一人の男がやって来た。彼は村の宿屋「駅馬車亭」に泊まり込むものの、大きい眼鏡、つやつやと輝くピンクの鼻、包帯に覆われた顔・・・という風変りな出で立ちをしていた。数日後、彼の部屋には大量の薬品の入った瓶、難しそうな本が荷物として届く。そんな客に、宿屋のホール夫妻を始めとする村人達は次第に興味と不信感を持つ。しかし、次第に周囲とトラブルを起こすようになり・・・

 

「タイムマシン」の時もそうでしたが、SFによくあるドラえもん的なワクワク大冒険という雰囲気は全くなく、物語が進むにつれて人間の狂気や欲望が鮮明に浮き上がり、読みながら怖くなってきました。

透明人間ことグリフィン氏はデスノート」の夜神月タイプのキャラクターだなって思いました。反省をせず、良心を持たず、重度の選民思想と手が付けられない凶暴性・・・あの人格はまさしくライトでした。

それから、作中でアルビノ(髪や肌の色素が薄く、目が赤い)であることが示唆されています。推測ですが、グリフィン氏はアルビノであるが故、小さい頃から迫害を受けてそれによって心が歪んでしまい、マッドサイエンティストになってしまった・・・という一面もあるのではないしょうか。作中でも「人類を敵に回して戦う」みたいな発言をしていますし・・・(最後の方に載っている「解説」のところでも同じ推測がされていました。実際にアルビノの人達に対する偏見・迫害もあるようです)

これを踏まえると、ガンバの冒険」の白イタチ・ノロイにも似ていますね。彼もまたアルビノであり、良心や憐みを持たず、その有り余る凶暴性でネズミたちを虐殺していきます。

 

最初から中盤までのアイピング村でのお話は、「透明になってしまって、それによる焦りのせいで怒りっぽくなっているんだろうな。早く戻りたいんだろうな」という感想でしたが、展開が進んでいくと・・・彼の本性がかなり危ないものであることが分かってきます。

途中で自分の手足とするべく、偶然出会った浮浪者トマス・マーベル氏を脅してこき使います。二人の出会いを見て、「ちょっとコミカルっぽくなっていくのかな」とも思いましたが、全然そんなことはなく。段々マーベル氏が可哀想になってくると同時に、透明人間にまともな良心がないこともはっきりするのです。

 

そして、マーベル氏と二人で放浪するうちに同じ大学出身のケンプ博士と再会。この博士が透明人間を戻す手助けをする救世主になるのかと思いきや、グリフィン氏の暴走は止まることを知らず、彼は「君と一緒にこの研究を続けたい。君だけが頼りだ」という始末。ここでグリフィン氏の歪んだ思想が一気に暴露されます。アイピング村に辿り着くまでに起こした事件の数々も彼の異常性を物語っていました。ケンプ博士はまともな精神を持っていたので、警察と手を組み透明人間と対決することに・・・

 

最後、透明人間ことグリフィン氏はその報いを受けます。そして、透明だった体は元のアルビノの肉体へと戻っていくのです。

あれほど酷い行いをしてきた彼ですが、その「死」の描写が何とも言えない悲愴・哀愁を漂わせています。これはきっとグリフィン氏に限られたものではなく、人間と言う生き物の持つ普遍的な「何か」を表しているように思えます。弱さだったり、狂気だったり、生きることへの苦悩だったり・・・

 

ともあれ、ケンプ博士を守るため透明人間に撃たれた警察のアダイ署長は生きていたようなので安心しました!ヒッチコックと同じく無駄に人を殺さない、ウェルズの描き方に好感が持てます。

 

「タイムマシン」の方は舞台が「気が遠くなるほど遠い未来」ということと、敵対するモーロックが人間離れしているということで、どこか異世界のお話に感じられましたが、「透明人間」の方は「今現実にこういう人間はいるし、過去にもおそらくたくさんいた」という現実的な怖さがあると思います。

 

私が今回読んだのは、小学上級生以上が対象の「偕成社文庫」版です。児童対象ということもあり文章も分かりやすいものでしたが、それでも充分すぎるほど透明人間の心の闇が伝わってきました。今夜夢に出るんじゃ・・・と心配したくらい(笑)ウェルズの「狂気の描き方」が半端なくうまいんでしょうね。

 

ウェルズの生きた時代というのも、まさに科学の黎明期・発展期だったようです。だからこそ、目覚ましく発展しつつもどこに向かっていくのか分からない科学、そこに絡む人間の欲望・狂気といったものが生々しく描写されているのですね。

 

現代人こそウェルズの作品を読んで欲しい・・・そう思います。

 

 

 

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