随想手帖

時に真面目に、時にゆるく綴っております。ちなみにオタク(腐)です。

「くじ」(シャーリイ・ジャクスン 1949年)異色作家短篇集⑥

異色作家短篇集初の女性作家さんです。男性とは違う、女性ならではの怖さが如何なく発揮されています。宇宙や仮想未来を舞台にしたSF要素はなくて、日常に潜む狂気や闇を描いている短篇集です。

 

 この作品の特徴として、一つ一つは独立したお話ながら、ある特定の男性キャラクターがいくつかのお話に登場します。名前はジミー・・・だったかな?しかし、どことなく人間離れしていて、最後の解説でも「悪魔の化身ではないか」との考察がされていました。

 

印象に残ったお話の感想を書いていきます。

 

『おふくろの味』・・・二人の男女(友達だったか、恋人だったかは忘れました;)が男性の部屋で食事をしようとするんですね。その料理は男性が丹精込めて作ったもの。食器・ナイフ・フォークにもこだわりがあります。しかし、突如訪問してきた紳士(二人の知り合い)によってそれはぶち壊しに・・・女性はさも自分が料理を作ったかのように紳士に説明し、女性と紳士は二人だけで盛り上がります。居場所のなくなった男性は仕方なく自分の部屋から出て行く・・・というお話。

これだけだと何のこともないストーリーに見えますが、訪問してきた紳士がじわじわと二人の場を乗っ取っていく・・・という場面が微妙に怖いです。物凄く怖い!というのではなく、しんしんと迫ってくるような、日常を少しずつ侵食していくような怖さです。この紳士こそ上記の『悪魔の化身』に相当するキャラクターです。まるで、人間の日常をさり気なく壊すことで楽しんでいるかのよう(*_*) メフィストフェレスのようですね。

 

『チャールズ』・・・個人的にこの作品で一番怖かった作品!幼稚園児の男の子が、家族に幼稚園での生活をお話するんです。そこに「チャールズ」という男の子のことが必ず話題に出ます。しかし、この「チャールズ」という子は結構な問題児のよう。両親は興味をそそられます。そして、参観日か何らかの行事かで、子供達の保護者が集まります。男の子の両親は噂の「チャールズ」と彼の親を探そうとして先生に尋ねます。でも、先生の答えは「そんな子はいませんよ」と・・・では、息子が語った「チャールズ」とは誰だったのか。ここで締めくくられます。

 

『塩の柱』・・・二人の夫婦がニューヨークと言う大都会に来て、そのスピードにおかしくなっていく、というお話だったかな。内容よりもタイトルが気になりました。このタイトル、旧約聖書のエピソードから取られているんですね。私も読んだ箇所ですが、登場人物や地名に慣れていない頃だったので忘れてしまいました;

調べ直してみると、「ソドムとゴモラが神の裁きによって滅ぼされる。ロト(アブラハムの甥)と彼の家族は救われるが、逃げる途中で『振り返ってはいけない』と神に忠告される。しかし、ロトの妻はそれを破り、振り返ってしまったため塩の柱になってしまった」というエピソードです。

このお話もある程度聖書に馴染んでいないと理解が出来ないお話なんだなというのは分かりました。

余談ですが、「振り返ってはいけない」と神に言われたのにそれを破ったため罰を受ける・・・というのは、ギリシャ神話のオルフェウスとエウリディケや、日本神話のイザナミイザナギでもありますよね。しかも、カップル・夫婦の片割れが・・・という形式。どこかで繋がっているんでしょうかね?

 

『くじ』・・・タイトルになっているお話です。

内容としてはざっくり言うと、毎年、その集落では『くじ引き』が行われていた。皆、それには当たりたくない様子。何故ならそれに当たってしまうと・・・という感じ。

更にこのお話の怖さは『誰も何故その『くじ引き』があるのかを知らない・・・』というところかと。形骸化して残り続ける伝統・因習・慣習、しかし、誰もその起源を知る者・知ろうとする者はいないという思考停止状態。

閉鎖的な田舎に住んだことのある人、またはそういう創作物に触れたことのある人なら、この怖さが身に染みると思います。これは舞台を日本の閉鎖的な村に移しても充分通じます。

外部の空気が入って来ない閉鎖的な環境にいると、どうしてもそうなってしまうのでしょうか。

 

 

この本は「一つ一つが短くて量が多い」という形なので、忘れてしまったお話も多いです。

けれども、日常に潜む人間の闇や狂気を丁寧に描き、なおかつその些細な生活の中に盛り込んでいる点がリアルです。一方で、上記のとおり『悪魔の化身』と思われるキャラクターによって紡がれたストーリー集ではないか、という見方も出来るので、『リアル(日常)』と『ファンタジー(非日常)』の両方の性質を持った作品であるとも言えるかもしれません。

 

 

 

 

くじ (異色作家短篇集)

くじ (異色作家短篇集)