随想手帖

時に真面目に、時にゆるく綴っております。ちなみにオタク(腐)です。

「ピノコ」という存在

 手塚治虫先生の描いた医療漫画の金字塔ブラックジャック

この漫画との出会いは中学生時代の英語の教材でした。

(本当は学年誌に載っていた「おまじないネコ チャクラくん」という漫画でブラックジャックのパロディをやっていたので、そっちが先なんですけどね・笑)

その教材で取り上げられていたのは、長年離れていたブラックジャックがお父さんと再会するお話です。

いやあ・・・ブラックジャック先生がかっこよかったので(笑)、すっかり惚れこみました(*^_^*) 父が手塚漫画で育った世代で、聞いてみると文庫版を一冊持っていたので早速読むことに。

そしたら、ブラックジャックよりもドクターキリコ先生が好きに(笑)

あの昭和時代の漫画によく出てきそうな悪人面が大好きだったんですね~。

 

勿論ブラックジャックもかっこいいなと思っていました。なので、彼の「奥さん」たる

ピノコに恥ずかしながら異様に嫉妬していました(^_^;)

ピノコって結構嫉妬深くて、先生が女性患者とちょっとくっついただけですぐ怒るんですよね。その部分が当時は好きになれなかったんです。

 

でも、今「ピノコ」というキャラクターを思い起こしてみると、何とも言えない魅力が小さな体に凝縮されていることに気付いたんですね。彼女もまた手塚漫画を象徴するキャラクターだったんだって・・・切なくなりました。

 

そんなピノコの魅力について語っていきたいと思います。

 

1・不完全体の人間として 「Baby」と「Lady」、「人間」と「機械」

ピノコは元々双子として生まれてくるはずでした。しかし、運命のいたずらのせいか、お姉さんの体内に吸収されて「ミッシングツイン」となります。

それでもピノコは寄生する形で生き続けました。いつしか超能力を使えるようになり、自分に手を下そうとする人間をことごとく払い除けてきました。

そんな彼女を説得して、お姉さんの体内から救い出したのがご存知のとおりブラックジャック先生です。先生はお姉さんの体内から出てきた人体のパーツを組み立てて、一人前の人間を創り出しました。

 

こうして「ピノコ」が誕生しました。

 

体の半分は人工素材でできており、「半人造人間」という感じです。

 

ピノコはこの世に出てきたばかりの0歳の赤ん坊です。

しかし、同時にお姉さんの体内で過ごした記憶も確実に持っています。(18歳とも21歳とも)

確かに彼女の言動を見ていると、年相応の子供らしいものもあれば、一概にそれだけとは言えない場面も多いです。どこか、大人の女性らしい品性や立ち振る舞いも見える。

子供の面しか持たなければ、気難しい「ゴッドハンド」たるブラックジャック先生のパートナーにはなりえなかったでしょう。

 

ピノコは先生の言うとおり赤ん坊、つまり「Baby」です。でも、同時に自称するところのレレィつまり「Lady」でもあるのです。

 

そしてまた、「人間」でもあり「機械」でもある。

 

彼女はとてつもない不安定な感情を持ちながら生きているのです。

 

ピノコが異様に嫉妬深いのは、自分が完全体の人間ではないことのコンプレックスを抱えているから・・・というのがあるのかもしれません。

だから、完全な肉体を持つ女性達に嫉妬する。その女性達に愛する先生を取られまいか恐れている。

 

「Baby」と「Lady」の間で、「人間」と「機械」の間で常に揺れ動くピノコ・・・

不安定であるがゆえ感情をコントロールしきれないピノコ・・・

全身で感情を現しながら、全身で懸命に生きているピノコ・・・

 

その不安定さ、その二面性こそがピノコの持つ魅力であるのです。

 

 

2・ブラックジャック先生との関係 「結ばれつつ、擦れ違う」

ピノコの先生に対する思いは一言で言えば「愛」です。

しかし、その「愛」は複雑で様々な要素を含んでいると言えそうです。

 

ピノコは先生の「奥さん」を自称しているので、おそらく自分では「女性として男性への愛情」と思っているでしょう。

確かにそれもあります・・・けれども、ピノコを見ていると決してそれだけではないんですよね。

彼女は自覚していないけれど、「子」から「親」への愛情も確実にあると思うんです。

ピノコは実の親からは我が子として認められていない、愛されなかった子です。

なので、その分の愛情を自分の恩人でもある先生にも間違いなく求めている。

本人は先生から娘扱いされることは嫌がっているけれど(笑)

 

それから、「被造物」として「創造主であり救世主」としての崇拝。

ピノコの先生への絶対的な思いは、愛だけではなく「崇拝」に近いものも同時に感じさせます。

命を救われ、それだけではなく一人前の人間として創ってもらえた彼女にとって、先生は愛する男性というだけではなく「創造主であり救世主」でもあるのです。

 

一方、ブラックジャック先生のピノコへの思い。

作品によっては娘扱いしたりしていますが、深い愛情を持っているのは事実です。

先生は一度ピノコをお金持ちのところに養子を出したことがあります。

「はっきり言って、お前が邪魔なんだ」と言っちゃう先生ですが、本当は自分のところにいるよりもちゃんとした家庭で育ってほしいという願いがあるんですよね。

先生、ツンデレだから(笑)

でも、最後はやっぱり戻ってきます。それがピノコにとっては何よりの幸せであるから。そして、先生のパートナーはピノコしかいないから。

先生の恋愛話としては如月先生との関係がありますが、ピノコへの思いには恋愛的なものは感じません。

むしろ、「同志愛」「運命共同体としての愛」を感じます。ブラックジャック先生はピノコに、子供の頃の自分を見ていたということも関係しているかもしれません。

 

何物にも代えがたい強い絆で結ばれている二人・・・でも、どこか擦れ違う二人でもある。

 

そこがブラックジャックピノコの関係を美しくも、切なくしている要因ではないでしょうか。

 

 

3・お姉さんとの関係 「まさに愛憎」

ピノコを語る上で欠かせないのが、お姉さんの存在です。

この姉妹は上記のとおり、本来双子として生まれてくるはずでした。

しかし、胎児の頃にピノコはお姉さんの体内に吸収され、それ以降ともに過ごしてきました。

昔はピノコを妹として認めず、ヒステリックに忌み嫌うお姉さんのことが、そして長年お姉さんの体内にいたにもかかわらず、お姉さんを憎むピノコのことが理解できませんでした。

 

でも、今ならわかります。

 

二人が素直に姉妹としての愛情を示し合うのには、余りにも悲しくつらいことが多すぎたのだと・・・

 

お姉さんにとってのピノコとは、長年自分を肉体にも精神的にも苦しめ続けた「悪しき病」です。彼女は自分の運命をさぞ呪ったことでしょう。

 

反面、ピノコも人間の形になる前から感情は持っていました。お姉さんのピノコに対する憎しみ・怒りがそのままダイレクトにピノコにいってしまった・・・自分のことを「悪しき病」と思って処分したがっていることも、一つの命として、妹として認めてくれないことも・・・

 

この姉妹は余りにも永いこと共に在り続けました。

ある意味親子以上に・・・仮に一つの受精卵が分かれた一卵性双生児だとしたら、なおさら・・・

 

だから、離れなければならなかったし、その反動も大きかった。

 

 

 

では、お互いに愛情がなかったのかというと・・・そうとも思えないんですよね。

「おとずれた思い出」というお話の最後、記憶が戻る前にお姉さんとピノコは別れます。

去りゆくお姉さんの姿を、ピノコは「おねえちゃーん!」と言いながら追いかけます。

それに対して先生はこう言う。

 

ピノコ、お前にお姉さんなんかいやしない」

 

ピノコは涙ながらに答えます。

 

「でも、本当のお姉ちゃんみたいだったのよ・・・」

 

ピノコはお姉さんを憎みつつも心のどこかでは求めいたんですよね・・・

 

また、お姉さんの方もピノコが重病で倒れた時、主治医に説得される形で輸血のために駆けつけました。相変わらずピノコに冷たい態度を取ります。

でも、お姉さんの方にもどこか姉妹としての愛情があったんだと思うんですよね・・・

だから最終的には来てくれたんだと。

 

出崎監督のOVA版では、お姉さんのピノコに対する愛情が描かれているようです。(私は未見ですが)

手塚先生と出崎監督・・・一件正反対の描き方のように見えますが私にとってはどちらも真実です。

 

ピノコとお姉さんの関係はまさに「愛憎」なんだと・・・

 

二人はとある名門のところの出です。

昔はただの資産家程度にしか考えていなかったのですが、調べてみるとどうやら宗教関係の名門らしいということが判明。

では、お姉さんの方はそれなりに良い暮らしをしていたのではないか・・・と思われますが、「おとずれた思い出」で突如ピノコのもとに現れた彼女はとても幸せそうには見えませんでした。

お姉さんは格式にガチガチに固められた生活に耐えきれなくなり、飛び降り自殺を図ったものの、無事一命を取り留めました。ただし、記憶は失われていました。

それでも、頭の片隅に残っていたブラックジャック先生の記憶を頼りに彼の診療所まで来たのです。

 

お姉さん、全然幸せじゃないですよね・・・

これなら、愛するブラックジャック先生と共に過ごしているピノコの方がずっと幸せに見えます。

 

ピノコにとっての幸せはブラックジャック先生と暮らすこと。

 

けれど・・・心のどこかでは「普通の家庭に、お姉さんと双子として生まれて、両親の愛情を受けて姉妹として育ちたかった」という願望もあったのではないかと・・・私は思います。

 

 

4・まとめ

今はこのピノコをギュッと抱きしめたいです。

もう何だか・・・本当に愛おしくてたまらない・・・!あの不安定さもまた愛おしい!

医者の免許を持ち、独特の世界観・哲学を持っていた手塚先生。

 

火の鳥」と同じく、「ピノコ」という存在もまた「人間とは何か」ということについて深く考えさせてくれる。

 

ピノコはまさに手塚漫画のシンボルともいえるキャラクターの一人なのです。

 

ちなみにピノコみたいな「ミッシングツイン」というのは現実にあるそうです。

一見架空の症例に見えるこの事実を、多くの人に広めた手塚先生の凄さを改めて知ったのでした。